映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』評論!狂気に身を委ねる心地よさ!

映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』評論

映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』の10点満点評価

★★★★★★★★★★(10点)

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映画評論ブログ立ち上げ以降、初の「満点」を付けざる得ない作品です。「現実」と「虚構」が混然一体となった狂気に溢れた唯一無二な世界観は、鬼才「テリー・ギリアム監督」以外では作れないと思います。

映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』公式&TOHOシネマズ予告動画、およびストーリー概要

仕事への情熱を失くしたCM監督のトビーは、スペインの田舎で撮影中のある日、謎めいた男からDVDを渡される。
偶然か運命か、それはトビーが学生時代に監督し、賞に輝いた映画『ドン・キホーテを殺した男』だった。

舞台となった村が程近いと知ったトビーはバイクを飛ばすが、映画のせいで人々は変わり果てていた。

ドン・キホーテを演じた靴職人の老人は、自分は本物の騎士だと信じ込み、清楚な少女だったアンジェリカは女優になると村を飛び出したのだ。
トビーのことを忠実な従者のサンチョだと思い込んだ老人は、無理やりトビーを引き連れて、大冒険の旅へと出発するのだが──。

映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』ウィキペディアより引用

映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』のポイント

良かった点

  • 映画が「総合芸術」であることを再確認させられるほどの圧倒的な芸術力
  • 狂気の世界にいるのに、居心地が良いという「異常な高揚感」が楽しめる
  • 構想30年、企画頓挫9回を乗り越えた鬼才「テリーギリアム監督」の執念の一作が堪能できる

気になった点

  • 「狂気」に身を委ねられない方には、不快で支離滅裂な映像作品に見えてしまう

映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』の感想

「当映画評論ブログ」では、多面的・水平思考を持った視点の評価を心がけ厳しめな採点をしておりますが、ついに「満点を付けざる得ない」作品と出会ってしまいました。

それが今回、評論させて頂く『テリー・ギリアムのドン・キホーテ(The Man Who Killed Don Quixote)』です。

邦題タイトルにも付いている通り「テリー・ギリアム」という監督が構想30年の歳月をかけて作り上げた作品ですが、映画全体が「狂気に満ち溢れているのに、妙に居心地が良い」という頭がぶっ飛んでしまいそうなドラッグ映画です。この映画こそ「まさに総合芸術の塊」と呼べる作品だと思いました。

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予告動画にもある通り、万人に受け入れられる映画ではなく「賛否」がハッキリ分かれる作品です。しかし、筆者の感性からすると、ケチのつけようがない完璧な映画です。

映画として「公開」されたこと自体が偉業

まず、本作『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』は、映画として完成し、世界に公開されたこと、それ自体が「偉業」と言わざる得ない作品です。

本作は映画史に刻まれた呪われた企画」と揶揄されるほど、自然災害や主演降板、資金繰りの失敗など、色々な事情が重なり9回の企画頓挫をしながらも、「テリー・ギリアム監督」熱意と執念により20年近い歳月を経て完成されました。

テリーギリアム

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』公式ホームページより

1998年から企画がスタートしていますが、普通の人間ならば約20年のうちに9回もトラブルにより企画倒れしてしまったら心がぽっきり折れしまいそうなものですが、本作の魅力を誰よりも疑わずに映画製作を決して諦めなかった「テリー・ギリアム監督」に尊敬の念を抱かずにはいられません。

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ちなみに、本作『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』の企画頓挫をドキュメンタリーとして描いた『ロスト・イン・ラ・マンチャ』という映画が作られています
若干のネタバレがOKな方はクリックして開いて下さい

「狂気」こそ芸術における最強の原石

本作は、映画全体が「狂気」に満ち溢れており、「賛否」がバッサリ分かれる「カルトムービー」の色があることを否定しません。

この映画を楽しめるかどうかは「狂気に身を委ねられるか否か」にかかっていると思います。

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居心地は悪いのに、なぜかその場に留まり続けたくなるという、「面白い悪夢」を見続けているような不思議な高揚感を与え続けてくれる映画です。

本作は、主人公でありCM監督である「トビー」が学生時代の卒業作品として作ったショートムービー『ドン・キホーテを殺した男』という作品から、全てが始まり、全てが狂っていきます。

「トビー」は、スペインの田舎村で実際に暮らす村人を役者として使い『ドン・キホーテを殺した男』を作成しました。

『ドン・キホーテを殺した男』の主役である遍歴の騎士こと「ドン・キホーテ」役として選ばれたのは、村の靴職人の老人こと「ハビエル」ですが、彼はただの村人であり、ど素人なので演技力が全くありません。

しかし、ふとしたことが「きっかけ」となり「ハビエル」が自身が『ドン・キホーテ』であると思い込む「役者スイッチ」が入り、突如として強烈な演技力を見せるようになります。

これにより「トビー」の卒業作品『ドン・キホーテを殺した男』は賞を取り、「トビー」は一躍有名な映像作品(CM)監督となり、10年の歳月が流れます。

ドンキホーテ

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』公式ホームページより

そして、あるCM撮影のために再びスペインに訪れた「トビー」ですが、過去の情熱を思い出すために、10年の歳月が経過した『ドン・キホーテを殺した男』のロケ地を訪れると、いまだに自分が「ドン・キホーテ」であると信じ疑わない狂人になり果てた「ハビエル」と再会し、物語はどんどん狂った方向に進んでいきます。

10年の歳月が経過しても「役者スイッチ」が入り続けている「ハビエル」ですが、彼を「ただの哀れな狂人」としてみるか、「超一流の役者」としてみるかが重要になると思います。

 

筆者は、超一流の役者は、その役柄になり切るために「人格の入れ替え」が出来る「狂人」であると考えています。

映画ファンならご存知の方も多いと思いますが、映画『ダークナイト』で「ジョーカー」を演じた「ヒース・レジャー」は役作りのため6週間ホテルに閉じこもり、ひたすら「ジョーカー」という「狂人」になる役作りをし続け、「実像としてのジョーカー」を演じ切り、世界で絶賛され、アカデミー助演男優賞を受賞しています。

しかし、「ジョーカー」の役作りが1つの要因と言われる精神疾患、それに伴う「睡眠薬の過剰摂取」で28歳という若さで命を落としています。

まさに命を削るという「狂気の沙汰」と言える「役作り」です。

ヒースレジャー版ジョーカー

『ダークナイト』Amazonブルーレイセット販売ページより

また、同じキャラクターかつ、映画の題名にもなっている『ジョーカー』で、2020年アカデミー主演男優賞を受賞した「ホアキン・フェニックス」も、4か月で23キロ以上減量するというクレイジーな役作りをしています。

ジョーカー

『ジョーカー』公式HPページより

「ホアキン・フェニックス」は、「ヒース・レジャー」と同等、それ以上の「ジョーカー」を演じる必要があったので、相当なプレッシャーがあったと思いますが、世界的に映画『ジョーカー』は大ヒットしたので、「ホアキン・フェニックス」の「怪演」に魅了された方は日本にも沢山いると思いますが、あの「怪演」が「狂気」という土台の上で実現されたことに異論を唱えることは出来ないと思います。

(物語としても「アーサー」が社会格差により、精神疾患が悪化し、最終的に『ジョーカー』という狂人ヴィランになる話でした)

 

世界の「名優」たちの「役作り」に関する逸話を上げるとキリがありませんが、「超一流の役者」の演技は「狂気」の上で成り立っているものだと思います。

つまり、「芸術分野」においては「狂気」は作品を輝かせる大きな要素であり、「最強の原石」だと筆者は考えています。

 

本作『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』は、物語序盤では「ハビエル」こと「ドン・キホーテ」の「狂気」に距離を置いていますが、物語が進むにつれて、「彼の狂気」に「トビー」と「観客である我々」が吸い込まれていき、徐々に「現実」と「虚構」の判断ができなくなっていくシナリオになっています。

そして、映画の終盤になってくると「狂気」こそ「むしろ正常」であると錯覚してしまう、とても面白い(恐ろしい)ドラッグ映画になっています。

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』の1シーン

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』公式ホームページより

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なお、「狂気に満ち溢れた総合芸術作品(映画)」ですが、「夢と魔法に溢れた世界」の冒険活劇なので、作風としては明るくポップな雰囲気に仕上がってます。

狂気の世界でも、矛盾なく世界観が保たれる凄さ

本作の大きな魅力は「狂気に満ち溢れた異常な世界感」なのに、同時に「世界観」が矛盾なく破綻していない点だと思います。

主人公である「トビー」は現世(21世紀)のCM監督としてスペインに訪れていますが、狂人となり果てた「ハビエル」こと「ドン・キホーテ」は、16世紀の人物であり、現世に「騎士道精神」を蘇らせようと奮闘するキャラクターとして配置されます。

このため、彼らの間には「現実」と「虚構」という溝が出来ますが、それを埋める材料として「聖週間に伴う仮装パーティー」を始めとしたさまざまな潤滑油が用いられます。

これにより、「現実」と「虚構」が同列に配置されても違和感を感じることなく、スッと受け入れられる矛盾のない世界観が映画の上で成り立っているのは、まさに「鬼才」と呼ばれる「テリー・ギリアム監督」のセンスに他ならないと思います。

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』のカメラセットシーン

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』公式ホームページより

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「現実」と「虚構」、「現世」と「16世紀」全てが渾然一体となっていて「とても居心地が悪いのに、愉快なので長居したくなるという奇妙な世界観」です。

本作『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』は、観る人によっては「アカデミー作品賞にノミネートされた映画たち」を凌駕するほどの魅力を持った映画です。

「狂気に満ち溢れた映画」なのに、観終わった後には「心地よい余韻」だけが残るという鬼才「テリー・ギリアム監督」のセンスが存分に楽しめる超名作映画だと思います。

主要キャラクター以外のサブキャラクターも全て良い配役になっており、自転車に乗った乙女の「ちょいブサ・サイコパス感」とか本当に最高です。(「I live」「I die」「I live」「I die」…)

 

破綻はしてませんが「ぶっ飛んだ世界観」なので、賛否両論となる映画なのは間違いありません。しかし、筆者にとっては、生涯ベスト級の映画でした。

クレイジーですが、ホラー要素は控えめなので、決して怖い映画ではありません。物は試しと、是非劇場で『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』を御覧下さい!

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日本で公開している映画館は限られているので、『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』を映画館でウォッチしたい方は、「公式サイトの劇場情報」を参照しましょう。