映画好き視点から『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III』評論

Fate評論

劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] IIIの10点満点評価

★★★★★★★(7点)

映画アイコン
本作『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』は、Fate/stay nightのいわゆる桜ルートの最終章です。本作を楽しむためには、かなりの準備が必要なので敷居が高い作品ではありますが、Fate/stay nightが描き出す「過去、現在、未来のIF」と「正義の形を規定しない」魅力が大きく詰まっています。

劇場版『 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』公式予告動画、およびストーリー概要

「俺は、桜にとっての正義の味方になるって決めたから」

少年は、真実からもう目を逸らさない。
少女を救うために。自分の選んだ正義を貫くために。

魔術師〈マスター〉と英霊〈サーヴァント〉が
万能の願望機「聖杯」をめぐり戦う――「聖杯戦争」。
その戦いは歪んでいた。

ひとりの少女――間桐 桜は犯した罪と共に、昏い闇に溺れてしまった。
桜を守ると誓った少年・衛宮士郎は遠坂 凛と共闘し、「聖杯戦争」を終わらせるため、過酷な戦いに身を投じる。

イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは闘争の真実を知る者として、その運命と向き合い、間桐臓硯は桜を利用して己が悲願を叶えようとする。

「だから──歯をくいしばれ、桜」

激しい風に抗い、運命に挑む少年の願いは、少女に届くのか。
終局を迎える「聖杯戦争」──。
最後の戦いが、遂に幕を上げる。

『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』公式HPより引用

劇場版『 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』のポイント

良かった点

  • 本作含むFate/stay night全体の総評として、「過去、現在、未来のIF」と「正義の形を規定しない」ことを1つの作品に詰め込まれている点が凄すぎる
  • 圧倒的な作画力により迫力がありながらも、キャラクターの配置が分かりやすく何が起きているかしっかり分かる
  • Fate/stay nightの「聖杯戦争」の核に迫る真実を知ることができる

気になった点

  • 本作を楽しむためには、最低限『原作』をプレイするか、アニメ版の『Fate/stay night(セイバールート)』『Fate/stay night Unlimited Blade Works(凛ルート)』、および『Fate/stay night [Heaven’s Feel] 』過去2作を観ておく必要があるので、敷居が非常に高い。 
  • 他TYPE-MOON作品との関係性や本作で意図的にパッケージとして完結させない描写に関しては、賛否が分かれる

劇場版『 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』の感想

まず評論をするにあたり、筆者はFate(TYPE-MOON)ファン視点ではなく、あくまで映画好き視点に立って筆を取らせて頂きます。

とはいえシリーズ全体を通して大きな魅力があり、すっかり半Fate(TYPE-MOON)ファンと化しているので、映画好き視点とFateファン視点の中間という立ち位置になってしまうかもしれませんw

映画サイトロゴ
アニメ版から入った新参者なので、原作&ホロウアタラクシア未プレイです。アニメは『Fate/stay night(セイバールート)』、『Fate/stay night Unlimited Blade Works(凛ルート)』、『Fate/Zero』『ロード・エルメロイII世の事件簿』『プリズマ☆イリヤ』『衛宮さんちの今日のごはん』『Carnival Phantasm』等一通りの関連作品を鑑賞しました。ちなみに、マーリンの宝具レベルもまだ2です。

Fate/stay nightという作品は何が凄いのか

僭越ながら『Fate/stay night』という作品の概要と魅力についてまず書かせて頂きたいと思います。

まず本作『Fate/stay night』という作品は、原作はギャルゲー(もっと直球で言うとエロゲー)ですが、主人公である「衛宮士郎」の選択する「正義の形」と「ヒロインキャラクター」にリンクする形で、全部で3ルートでストーリーが構成されています。

この3ルートで構成されているという点がポイントで、これにより「過去、現在、未来のIF」と「3つの正義の形」を1つの作品で表現しきっている点が大変奥深く、多くのファンを虜にしているポイントだと思います。

なお、今回評論させて頂く劇場版『 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』は、3ルート目「桜ルート」の劇場版アニメ3部作の最終章となります。

若干のネタバレがOKな方はクリックして開いて下さい

1つの作品で「過去、現在、未来のIF」と「3つの正義の形」を示している

本作の1週目のセイバールートでは、アーサー王がメインヒロインとして配役されますが、アーサー王はブリトン人の君主であり、様々な中世文学や創作物に登場する「男性」です。

アーサー王

ウィキペディア「アーサー王」より引用

しかし、もしアーサー王が『女性』として、現世に英霊(サーヴァント)として召喚されたらいうIFから始まり、主人公である「衛宮士郎」の選択する「正義の形」と「メインヒロイン」の選択による配役変更により1つの「Fate/stay night」という作品で、様々なIFが表現されます。

Fate/stay nightは以下の3つのルートで構成されています。

  • 1ルート目(アニメ版Fate/stay night)・・・「悪を倒す」という正義、メインヒロインは「セイバー(アーサー王)」
  • 2ルート目(アニメ/劇場版Fate/stay night Unlimited Blade Works)・・・「すべての人を救う」という理想的な正義を掲げるが、「個人の救い」と「全体の救い」が両立しないことに葛藤する、メインヒロインは「遠坂凛」
  • 3ルート目(劇場版Fate/stay night [Heaven’s Feel])・・・「多くの他人を犠牲にしても『身近な特定の人』だけを救う」という正義、メインヒロインは「間桐桜」

 

Fate/stay nightの各ルート(正義の形)は、『トロッコ問題』と呼ばれる「ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?」という「功利主義と義務論の対立を扱った倫理学上の問題」と照らし合わせながら考えると、より深く楽しむことができると思います。

トロッコ問題

トロッコ問題

線路を走っていたトロッコの制御が不能になった。このままでは前方で作業中だった5人が猛スピードのトロッコに避ける間もなく轢き殺されてしまう。
この時たまたまA氏は線路の分岐器のすぐ側にいた。A氏がトロッコの進路を切り替えれば5人は確実に助かる。
しかしその別路線でもB氏が1人で作業しており、5人の代わりにB氏がトロッコに轢かれて確実に死ぬ。A氏はトロッコを別路線に引き込むべきか?

ウィキペディア「トロッコ問題」より引用

  • 1ルート目・・・B氏を「悪」と規定し倒すことで、多くの人々(5人)を救う
  • 2ルート目・・・6人全員を救う理想を求めるが、両立不可である矛盾と葛藤
  • 3ルート目・・・B氏を助けるために、多くの人々(5人)を犠牲にする

映画やアニメを含む多くの創作物では、作者なりの「これが正解!」という「1つの正義の形」が示されることが多いですが、Fate/stay nightという作品は、この「正義の形を規定しない」という点が奥深く、人によってさまざまな「正義の形」があることを認識でき、認め合える点が多くのファンを獲得している点だと思っています。

映画サイトロゴ
3ルート目にあたる桜ルート(劇場版Fate/stay night [Heaven’s Feel])は、多くの人が一番取ってしまいがちな身近な「正義の形」ですが、士郎の義父にあたる「切嗣」の「理想の正義の味方」に最も遠く、また距離を取って俯瞰で観てみると「倫理的には一番歪んだ正義の形」ではないかと筆者は感じます。

劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』の魅力

劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』は、劇場版3部作の最終章となりますが、前作『Fate/stay night [Heaven’s Feel]」 Ⅱ.lost butterfly』から完全に地続きの構成となっており、主人公「衛宮士郎」の友人であり、本作のメインヒロイン「間桐桜」の兄にあたる「間桐慎二」の殺害現場、および「間桐桜」の闇落ちから物語がスタートするので、一気に観客の心を鷲掴みにされます。

なお、Fate/stay nightでは、「聖杯戦争」と呼ばれる英霊およびマスター同士の「殺し合い」がストーリーの核となりますが、劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』では、2時間2分という上映時間にとてつもない密度で、臨場感と爽快感のある圧倒的な作画による迫力のあるシーンが途切れることなく続きます。

そして「聖杯戦争」とはそもそも何かという根源に至るバックヒストリーが描かれるので、他2ルートを知っていると「うおーー!!」と熱くなるシーンの連続となっています。

映画サイトロゴ
Googleユーザのうち97%が評価したと統計データも出ているほど、本作『Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』はストーリーと戦闘描写の密度が凄まじいものがあります!

Fate/stay nightのかなりのネタバレとなってしまいますが、主人公である「衛宮士郎」の理想であり、「正義の味方」を求め続けた成りの果てである英霊「アーチャー」から譲り受けた左腕を使い覚醒するシーンは特に胸熱シーンとなっています。

映画サイトロゴ
「アーチャー」から「ついてこれるか?」という問いに対して、「ついてこれるかじゃねー!てめーこそついてきやがれー!」と叫びながら「アーチャー」を追い抜いていき、「アーチャー」が自分を越えて成長していく「過去の自分(衛宮士郎)」を優しい目で見守る描写は何度みても心が躍ります。

劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』の気になった点

関連作品を観た後だと魅力に圧倒されてしまう本作ですが、冷静に「映画好きからの視点」に立つと気になる点が全くなかったわけではありません。

まず1点目は、主人公「衛宮士郎」の「ドラえもん化」が激しいなーと感じました。

Fate/stay nightの主人公である「衛宮士郎」は「構造解析」「投影」による魔術が使え、「視認した武器を複製できる」という能力が使えます。(あえてサラッと書かせて下さい)

セイバールート、および遠坂凛ルートでは、この能力はあくまで「贋作」としての「投影」に留まっていますが、本作『Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』では、「贋作」の域に留まらず、宝具そのもの(オリジナル)の固有能力を保有した状態で「投影」が行えること、また闇落ちし最強の敵として立ちはだかる「桜」に対して、持っているだけで完封できる程のFate/stay night世界軸上、最強の武器を「投影」してしまいます。未来の自分(アーチャー)と融合し、覚醒した状態とはいえ、いくらなんでも・・・と感じてしまいます。

映画サイトロゴ
そんなすごい武器が作れるなら、なんで別ルートで「その武器」を投影しようとしなかったの?ねえ凛?と疑問を持ってしまいます。

また、2点目として、Fate/stay nightを作ったTYPE-MOONはもともと同人サークルということもあり、意図的に二次創作が作りやすいように「すべてを語り尽くさない」ようにしている、また別作品と世界観が繋がっているという特性を持っていますが、「映画好き」からすると単体でパッケージとして完結されない点は少しひっかかりを感じてしまいます。

とくに、ラストシーンではほぼセリフがなく矢継ぎ早なカット割りで、「ある奇跡」を表現していますが、TYPE-MOONの別作品「空の境界」は最低限見ていないと「???」となって置いてけぼりになってしまうと思います。

映画サイトロゴ
仮に観ていても「あ~なるほど!第三魔法(ヘブンズフィール)で魂の物質化、その魂を蒼崎橙子の「人形」に定着化したのか!納得したわー!とはなり辛いと感じましたが、いかがでしょう。

映画好き視点だと、「え?そこはもっとシンプルにできたのでは?」と思わず突っ込みたくなるところではありますが、Fate/stay nightでは語り尽くせない世界観があるからこそ派生した関連作品が生み出されているという事実もファン視点からすると認めざる得ません。

ラストシーンは完全に「はーい、ココはファン向けシーンです!Fate/stay nightしか見てない浅いTYPE-MOONファンは置いていきますよ~!」という明確なメッセージが打ち出されていたと思います。

賛否が大きく分かれるポイントだと思いますが、TYPE-MOONファンからすると「賛」、映画好きからすると「否」に大別されるのではないでしょうか。

映画サイトロゴ
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』において「アイアンマン」のモブキャラが11年越しにキャラ立てされて出て来て鳥肌がたった映画好きが言えるセリフではないんですけどね・・・

「イリヤルート」という個人的な希望

本作をもって、Fate/stay nightのアニメ化は完結となってしまいますが、筆者個人的にはどうしてもFate/stay night世界軸上では「イリヤ」が不憫過ぎて救ってあげて欲しいという気持ちが残ります。

こういうことを書くと、「お前、『プリズマ☆イリヤ』って素敵な作品知ってる?」と突っ込まれるのは百も承知なのですが『プリズマ☆イリヤ』は、Fate/stay nightとは別の世界軸のストーリーとなっているので、Fate/stay night世界軸で彼女を救って欲しいんじゃー!と切に願います。

桜ルート(Fate/stay night [Heaven’s Feel])では、多くの他人を犠牲にしながらも、「桜」という個人を救う「正義の形」が示されます。

物語上は完全にハッピーエンドとして完結しますが、「桜」によって多くの一般市民が犠牲になったことを忘れてはイケないと思います。

映画サイトロゴ
桜が「最近では罪に対して向き合えるようになってきました・・・」と発言していますが、魔術協会や聖堂教会と連携しながら、もっと具体的に罪に対して向き合えや!と突っ込んでしまいます

アニメやゲームでは、モブキャラはいくら犠牲になってもOKという風潮がありますが、犠牲になった方々の関係者、またその子孫からは当然「憎しみ」が生まれるはずです。

この「憎しみ」による暴力の連鎖に焦点を当てた「イリヤルート」を作って頂けたら最高と感じるのは筆者だけではないと思うのですが、TYPE-MOONファンの皆様、および奈須きのこ先生いかがでしょうか。

確か「イリヤルート」が作られた場合、ラスボスは「桜」になるだろう・・と仰ってた気がします。

映画サイトロゴ
モブキャラの殺害に対して逃げずにダークな側面を描いたのが、ノーティードッグが開発しソニー・インタラクティブエンタテインメントから発売された『The Last of Us Part II』だと思います。プレイしていてストーリーが進むにつれ心が痛む作品でしたが、あの後味の悪さを「イリヤルート」で描いて頂けたら幸いです。

繰り返しとなりますが、本作を楽しむためには最低限『原作』をプレイするか、アニメ版の『Fate/stay night(セイバールート)』、『Fate/stay night Unlimited Blade Works(凛ルート)』、『Fate/stay night [Heaven’s Feel] 』過去2作を観ておく必要があるので、楽しむための敷居が高い映画になっています。

一方で、最近ではマーベルシネマティックユニバース作品の「アベンジャーズ」や「ワイルドスピード」を始めとした1本の映画単体では完結しないアッセンブル系シネマが世界中でメジャー化している事実もあります。

アニメ版の『Fate/stay night(セイバールート)』、『Fate/stay night Unlimited Blade Works(凛ルート)』を観てから、本作『Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』を見ると鳥肌が立つほど感動するシーンがモリモリになっています。

映画サイトロゴ
まだ、Fate/stay nightの面白さを味わっていない方は、是非アニメ版の『Fate/stay night(セイバールート)』からご鑑賞下さい!