映画『ジョジョ・ラビット』評論!戦争をポップなユーモアで包んだ超名作

映画『ジョジョラビット』評論

『ジョジョ・ラビット』の10点満点評価

★★★★★★★★(8点)

MCU作品の中でも特に面白いと言われている「マイティソー:バトルロイヤル(ラグナロク)」の「タイカ・ワイティティ監督」作なので、独特なセンスとユーモアが全体にちりばめられていて、戦争という重いテーマを扱った作品ながら、疲労感を全く感じずに鑑賞できる名作です。

『ジョジョ・ラビット』公式予告動画、およびストーリー概要

第二次世界大戦中、孤独なドイツ人少年のジョジョは周囲からいじめられており、イマジナリーフレンドのアドルフ・ヒトラーのみが救いだった。ある日、母親が屋根裏にユダヤ人の少女を匿っているのを発見したことから、政治的な考えが変わり、ヒトラーのナショナリズムに向き合うことになる。

『ジョジョ・ラビット』ウィキペディアより引用

『ジョジョ・ラビット』のポイント

良かった点

  • ヒトラーというタブー視されがちな人物と第二次世界大戦を描きながら、ポップでコミカルなユーモア溢れる雰囲気に映画全体が仕立てられている。
  • 戦争残虐描写のゴア表現が薄く、カメラワークや音で表現しきっている。(それでいて戦争の悲惨さは十分伝わる)
  • オープニング、エンディング突入の手際の良さ、選曲が素晴らしく、「ガーディアンズオブギャラクシー(ジェームズ・ガン監督作品)」に通じる魅力がある。

気になった点

  • 「スカーレット・ヨハンソン」が、どうしても「ブラック・ウィドウ」に見えてしまう。(それだけアベンジャーズで適役だったということ!)

    ロージー

    『ジョジョ・ラビット』公式HPより

  • 公式広告動画に「美味しいカット」が盛られすぎていて、各シーンでおおよその展開が先読みできてしまう。
  • ゴア表現が薄すぎて、リアリスト視点だと「いくらなんでもその程度で済まないのでは?」と感じてしまうところはある。

『ジョジョ・ラビット』の評論・感想

トロント映画祭で観客賞を受賞しているだけあって、とても素晴らしいクオリティの戦争映画です。アカデミー賞の有力候補なのも納得です。

「第二次世界大戦」の「ナチスドイツ」、「ユダヤ人迫害」という悲惨で残酷な歴史の1ページとされている史実をベースにしながらも、「タイカ・ワイティティ監督」の圧倒的な力量で、全体的にポップでコミカルなユーモア溢れる雰囲気に仕上げており、戦争映画なのに重すぎず、それでいて軽すぎないバランス感がほんとうに素晴らしい作品だと思います。

若干のネタバレがOKな方はクリックして開いて下さい

オープニングとエンディング突入演出の手際の良さ

まず、『ジョジョ・ラビット』で特筆すべきなのは、オープニングとエンディングロール突入の演出力と選曲が最高だと思います。

オープニング曲は世界中の人が一度は聞いたことがあるビートルズの名曲「I Want to Hold Your Hand」のドイツ語バージョンの「Komm, Gib Mir Deine Hand」がかかっています。

ビートルズはご存知の通りイギリスを代表するロックバンドですが、イギリスロックバンドのビートルズがドイツ語で歌う「Komm, Gib Mir Deine Hand」がオープニングで流れることに、第二次世界大戦では敵同士であった「イギリス」と「ドイツ」が互いを尊重し、平和を願う思いが詰まっている点、また歌詞がその後の主人公「ジョジョ」とユダヤ人「エルサ」の関係性と物語的にリンクしている点でも鳥肌物です。

また、エンディングロール突入時には、主要キャラクターの指パッチンとダンスとともに、デヴィッド・ボウイの名曲「Heroes」のドイツ語バージョン「Helden」が流れるのも同様にお見事です。

物語の中で、主人公の母親「ロージー」が自由の象徴の1つとして「ダンス」を上げていますが、終戦後のエンディングシーンで「Helden」に合わせたダンスを踊りながらエンドロールに突入するのが、映画的、かつミュージカル的な手際の良さに感服致しました。

(主人公ジョジョのちょっと不思議なリーゼント風の髪型が「デヴィッド・ボウイ」と重なるところがあり、また味が出てイイですよね~)

デヴィットボウイ

『デヴィット・ボウイ』Wikiより

このあたりは、「タイカ・ワイティティ監督」の「マイティーソー:バトルロイヤル(ラグナロク)」のオープニング、および終盤において流れる、レッド・ツェッペリンの「移民の歌(Immigrant Song)」の選曲、演出の手腕の良さがそのまま発揮されてるなー!と恐怖すら覚える程感動しました。

ゴア表現が薄いのに、ずっしり伝わる戦争の怖さ・悲惨さ

『ジョジョ・ラビット』は戦争映画ですが、主人公に10歳の子供の「ジョジョ」を当てていること、「タイカ・ワイティティ監督」のセンスにより全体的にポップでユーモアさ溢れるバランスに仕上がっています。

ただ、戦争の悲惨さ・残酷さを表現するシーンは、血が飛び散る等のゴア表現ではなく、カメラワークや音で見事に演出されており、「想像力でより感じる、戦争の恐ろしさ・悲惨さ」がずっしり伝わるバランスになっています。

特に物語後半、主人公「ジョジョ」にとってかけがえのない人物が「反ナチ運動者」として処刑されますが、カメラワークで特徴的な靴だけ映し、周りの家の窓を「世間の目」のように見立てて、その処刑の様が眺められているようなシーンから、「戦時中に平和を願うこと」「ドイツにおける反ナチ運動」がいかに難しく、許されない行為であったかがありありと理解できるシーンになっていたと思います。

主人公ジョジョの成長・モラルの葛藤表現

本作『ジョジョ・ラビット』では、思春期真っただ中の10歳の「ジョジョ」が主人公なので、物語の進行とともに、恐ろしいスピードで自己モラルが確立(成長)していきます。

その成長を表す映画的なモチーフとして「靴ひも」と、妄想の友達「アドルフ・ヒトラー」が使われています。

物語の序盤では、「ジョジョ」は自分一人では靴紐を結ぶことが出来ません。

しかし、「ある人物」の死に直面した直後に、その人物が履いている「靴ひも」を結んであげています。

自分の「靴ひも」すら結べなかった「ジョジョ」が人の「靴ひも」まで結べるようになるという、主人公を10歳の子供に置いているからこそできるユーモアとセンスが溢れる映画的な成長表現だと思います。

また、公式の予告動画でも出てくる通り、「ジョジョ」は「アドルフ・ヒトラー」が妄想の友達として見えています。

「ジョジョ」が不安なとき、自分のモラルと格闘するときに「アドルフ・ヒトラー」が出てきてアドバイスしてきますが、彼の成長とともに「アドルフ・ヒトラー」の登場シーンが物語後半になるにつれ少しずつ減ってきます。

また、最終的に「戦争の愚かさ」「人を愛する大切さ」を悟った主人公「ジョジョ」が「妄想のアドルフ・ヒトラー」と自分の意志で決別するシーンは、ほんとうに感動して涙が自然と溢れてきます。

何も書いてない「白紙の手紙」を優しさ溢れる言葉でつづって、ユダヤ人の「エルサ」を励ますシーンは、日本人だと「タモリさんが赤塚不二夫さんの弔辞で使っていた紙には何も書かれておらず全てアドリブだった」という逸話とリンクしてしまいますよね

クレンツェンドルフ大尉(キャプテンK)がとにかくカッコいい!

『ジョジョ・ラビット』に登場するキャラクターたちは、どのキャラクターも立っていて、いい味を出しているのですが、中でもサム・ロックウェルが演じる「クレンツェンドルフ大尉」こと「キャプテンK」がカッコよすぎます。

キャプテンK

『ジョジョ・ラビット』公式HPより

彼は、物語最初の訓練キャンプにおいて演説をしますが、その中で「表面的には順調だ」と発言しており、第二次世界大戦の大局を見ており、この演説の時点ですでにこの戦争でドイツが負けて終戦することを確信していたと思います。

このため、これ以上、戦争で互いに争い殺し合うことの無意味さを理解しており、これが『ジョジョ・ラビット』の物語上、とても意味のある下地になっていると思います。

彼が「ジョジョ」、「エルサ」を助けるために取った行動、そして明らかに実戦向けじゃない目立つパレードのような軍服を身にまとい、「さあ、俺を殺してくれ!俺の死を持ってこの愚かな戦争を終わらせよう!」というセリフではない映画的なメッセージ表現が惚れ惚れするほどカッコよかったです。

そして、彼は「ゲイ」で、「フィンケル」と恋仲にあるのがほんのり分かるバランスもよかったな~と思います。(パレード風の軍服を着ているときも、女装のような化粧をしていましたもんね)

やっぱり一般論をのり越えて人を愛せる同性愛者っていうのは、いつの時代も「平和主義のシンボル」の1つなのではないかと僕は思います。

気になってしまったポイント

『ジョジョ・ラビット』の良いところのツボを書いてきましたが、気になるところがなかったわけではありません。

配給がディズニーというのもあり、ゴア表現が控えめなのは良いポイントでもあるのですが、同時に「戦争のリアリティさ」が欠けているのも事実だと思います。

例えば、公式予告動画にもあるように、主人公「ジョジョ」が手榴弾で自爆してしまいますが、正直目の前で手榴弾が爆発して顔にちょっとした傷跡が残る程度では済まないのでは?とか、首つりされた人間は首が伸びて体液が散らばるはずだが?とか、リアルな戦争映画を見ている方だと余計に気になってしまうマイルドさはあるだろうな~と感じました。

とはいえ、個人的には、第二次世界大戦がいかに悲惨であったかを考えなおし、次の第三次世界大戦が起きないように平和を願う気持ちを持つキッカケになることが大切なので、戦争のリアリティ表現がそこまで映画に必要な要素ではないかな~とも考えています。

私には子供がいませんが、もしいたら「戦争がどういうものだったか」を勉強してもらうために迷わず見て貰っている作品だと思います。

戦争という重いテーマを扱っていながら、「タイカ・ワイティティ監督」の手腕でポップでユーモアあふれる作品に仕上がっていますが、それでいて戦争の怖さ、愚かさは深く考えさせられるというバランスはまさに「名作」だからこそのパワーだと思います。

最後に詩人「ライナー・マリア・リルケ」の名詞を綴ります。

『Let everything happen to you Beauty and terror Just keep going No feeling is final』

いままで色んな戦争映画を観てきましたが、個人的には『ジョジョ・ラビット』は「子供に見せたい戦争映画No1」です。是非劇場で『ジョジョ・ラビット』をご鑑賞下さい。