映画『スキャンダル』評論!「セクハラ問題」を改めてじっくり考えよう

映画『スキャンダル』評論

映画『スキャンダル』の10点満点評価

★★★★(4点)

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「セクハラ」がいかに「人の尊厳」を傷つけるかじっくり考えるキッカケを貰えるので、作品としての「価値」「志」は認めます。しかし、「アメリカ国内におけるリアルライブ視点」を持っていない観客は完全に置いて行かれてしまう作りなので、アメリカ国外観客(日本人含む)が観た場合、映画の魅力を100%味わうことは出来ない映像作品だと思いました。

映画『スキャンダル』公式予告動画、およびストーリー概要

2016年、アメリカニュース放送局で視聴率NO.1を誇る「FOXニュース」に激震が走った!
クビを言い渡されたベテランキャスターのグレッチェン・カールソンが、TV業界の帝王と崇められるCEOのロジャー・エイルズを告発したのだ。
騒然とする局内。看板番組を背負う売れっ子キャスターのメーガン・ケリーは、自身の成功までの過程を振り返り心中穏やかではなくなっていた。
一方、メインキャスターの座を狙う貪欲な若手のケイラは、ロジャーに直談判するための機会を得て――。

『スキャンダル』公式HPより引用

映画『スキャンダル』のポイント

良かった点

  • 権力を使った「セクハラ」、もしくは「一方的な性交渉」がいかに「人の尊厳」を傷つけるか再考する機会が与えられる
  • 「セクハラ」を行った側を単純に「完全悪」として描かず、行った側も行われた側、どちらも傷つくことを描いている
  • 通常の映画とは異なる「ヴィジュアル的なセンスが溢れるシーン」が素晴らしい

気になった点

  • 「アメリカ国内からのリアルライブ視点」を持っていないと置いて行かれしまうシーンが多い
  • 最初からこの映画の顛末は誰もが容易に想像できるが、その観客の予想通りの着地点で終わってしまう

映画『スキャンダル』の感想

2020年2月21日公開の映画『スキャンダル』の評論記事です。

本作『スキャンダル』は、「シャーリーズ・セロン」「ニコール・キッドマン」「マーゴット・ロビー」の3大女優の共演とともに、日本人男性「カズ・ヒロ」さんがアカデミー賞の「メイクアップ&ヘアスタイリング賞」を受賞した作品となり話題作です。(「カズ・ヒロ」さんは日本文化に嫌悪して、アメリカに国籍を移籍しています)

スキャンダルの3大女優

『スキャンダル』公式ホームページより

最初に結論を書きますが、アメリカの直近時事ネタを元にした映画なので、「アメリカ国内からのリアルライブ視点」を持っていない観客は、どうしても置いて行かれてしまう作品になっています。

このため、我々一般的な日本人から見ると「へー、そんなことがあったんだ~」とやや距離を置いて作品を眺めることになるので、本作が持つ「面白さ」を100%堪能するのが難しいと言わざる得ないと思います。

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ただ、「セクハラ」は日本人の我々としても他人事の問題ではないので、持ち帰り考えることは多いです。
若干のネタバレがOKな方はクリックして開いて下さい

「セクハラ」がいかに人の尊厳を傷つけるか理解できる

本作『スキャンダル』が最も価値があるポイントは、権限を盾にした一方的な「セクハラ」、および「性交渉」がいかに相手の「人としての尊厳」を傷つけることになるのか再考する機会が与えられる点だと思います。

本作は、アメリカのニュース専門放送局である「FOXニュース社」の元CEOでありメディア王と呼ばれた「ロジャー・エイルズ氏」の権力を盾とした「セクハラ」および「一方的な性交渉」を女性ニュースキャスターの「メーガン・ケリー」告訴し、その声に賛同し多くの女性たちが立ち上がる、いわゆる『#me too』運動の中核を描いた作品になります。

スキャンダルの1シーン

『スキャンダル』公式ホームページより

FOXニュースは、「Fair and Balanced(公平公正)」と「We report, You decide(我々は報道する、判断するのはあなた)」をスローガンとして掲げた中立報道を心がけた超人気ニュース放送局です。

日本でも、「TVでバラエティー番組を見るのは禁止」という気品と厳格に溢れた家庭がありますが、そういう家庭でも鑑賞が可能な「お堅く品のあるTV番組局」をイメージして頂ければ分かりやすいかと思います。

「Fair and Balanced(公平公正)」をかかげている組織のトップである「ロジャー・エイルズ氏」が社内で権力を行使し、一方的な「セクハラ」「性交渉」を行っていたということが世間の明るみに出てしまうと、ニュース放送局のイメージがいかに傷つき、経済的にも大打撃を受けるかは容易に想像が出来ると思います。

スキャンダルのシーン

『スキャンダル』公式ホームページより

こういう社風、環境下のもと、メディア王と呼ばれる「ロジャー・エイルズ氏」を相手にして一方的な「セクハラ」「性交渉」を告発することは、周りにいる全ての人を敵にまわす行為に等しく、全てを捨て去る覚悟のもとでしかできない非常に「勇気」がある行動であったと思います。

筆者は日本に住んでいるので、アメリカ国内のリアルライブ視点は持ち合わせていないので、「#me too」運動については、やや冷めた視点で眺めておりましたが、本作『スキャンダル』を鑑賞して「#me too運動」が決して他人事ではなく、とても身近でしっかり逃げずに考えなければならない問題だと認識できました。

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本作で描かれる「セクハラ」は権力を使った「レイプ」に近いものなので明らかにアウトです。しかし、「セクハラ」は状況証拠だけではなく、当事者の形無き「気持ち」が最も重要になるので、境界線をどのように設けるべきなのか本当に難しい問題だと思います。

「ロジャー・エイルズ氏」を完全悪として描かない素晴らしさ

本作は、「FOXニュース社における社内セクハラ告発」を描いた事実をもとにした作品ですが、最初に「可能な限り事実に基づき描いているつもりだが、一部フィクションが含まれる」旨のメッセージが流れ、「公平公正」を心がけて作品は作っているが、どうしても偏りは出てしまうため、一方的な判断はしないで欲しいという注意喚起がされます。

ドキュメンタリーや史実をベースにした映画では「これが正解であり、事実だ!」と言わんばかりの作品が多いですが、最初にこういう注意喚起メッセージを流す潔さ、公平公正な視点は素晴らしいと思います。

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映画「リチャード・ジュエル」でも、女性記者「キャシー・スクラッグス」がFBIからどのように情報を得たかという点については、一方的な想像が含まれているとして議論となりました。

『リチャード・ジュエル』評論!資本主義とメディアの影を問う名映画!

そして、劇中でも「ロジャー・エイルズ氏」を完全悪として描いていない点が良いと思います。

確かに「エロオヤジ」の側面はあったが、テレビが視覚メディアであることを誰よりも理解している素晴らしい才能の持ち主であったこと、またトランプ大統領からのtwitter攻撃、またそれに伴う他メディアからの囲いこみから社員を守ろうとする「正義感」を持ち合わせた人物であったことが描かれています。

また、「メーガン・ケリー」の告訴を受けて、「ロジャー・エイルズ氏」側も傷つき、心を痛める出来事が周りで起きたかを丁寧に描いています。

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つまり、「セクハラ」は行われた側だけではなく、行った側も傷つく行動であり、しっかりと「セクハラ」が起きないように常に心掛けないといけない問題であると認識できます。

ただ、すごく気になったのは、「ロジャー・エイルズ氏」は2017年に亡くなっていますが、本作『スキャンダル』は2019年以降に公開されているので、「ロジャー・エイルズ氏」が本作に反論ができず、「ロジャー・エイルズ氏」およびその親族の尊厳を傷つける「メディアリンチ」の側面があるような気がします。

制作期間や広報期間等の結果として、「ロジャー・エイルズ氏」の死後に公開となってしまった可能性は否定しませんが、「公平公正」の視点が最も欠けている大きなマイナスポイントだと思います。

他映画とは異なる視覚的な面白さ

本作『スキャンダル』は、FOXニュース社というニュース放送局の内部情勢、およびその中の「セクハラ告発」を描いた作品なので、普通の映画とは異なりテレビニュース的なカメラワーク、およびビジュアル的センスの溢れた作品になっています。

物語序盤に、FOXニュース社のインタビューの結果、トランプ大統領を激怒させてしまい、twitterで「トランプ大統領の怒りのメッセージ」がひっきりなしにネットに上げられていく様子をユニークかつ、普通の映画とは異なるヴィジュアル的な愉快さで描いていました。

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「トランプ大統領」がアメリカ国内において、いかに支持派と反支持派にバッサリ分かれているかが理解できる「アメリカ国内情勢」をリアルに映し出した面白いシーンでした

また、「メーガン・ケリー」氏の告発を受けて、他の女性たちも同様に「セクハラ被害」を受けたかを表明する「#me too」シーンでは、肖像写真をスライドさせながら、告発のセリフナレーションが入っていくという「いかにもニュース的な映像演出」がされており、普通の映画とは違ったヴィジュアル面のユニークな映像演出が楽しめます。

映画『スキャンダル』まとめ

「セクハラ」がいかに「人間の尊厳」を傷つけるか考えなおすキッカケを与えてくれる映画ではありますが、アメリカ国内のリアルライブ視点を持っていないと「ポツーン」と放置されてしまうシーンが多い映画になっています。

また、少し調べればどのような「エンディング」を迎えるか誰でも簡単に想像できるのですが、その「想像通りの結末」で終わってしまうので、10点満点中4点という厳しい採点をせざる得ませんでした。

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アカデミー賞の作品賞にノミネートされた『アイリッシュマン』は、史実を描き、さらに観客の予想を超えたその先にある「映画だからこそ描けるモノ」を描き切った点が絶賛されているポイントだと思います。
持ち帰り考えることも多いのですが、ただ史実を描くだけならば、それこそ「ニュース番組」で良いと思うので、華やかな名女優たちを投入してまで「映画化」する意味が本当にあったのかな~?というのが、筆者の率直な感想です。しかし、アメリカを中心に巻き起こっている「#me too」運動の中核を知るキッカケになるので、「セクハラ」問題について勉強、考えたい方は必見です。
なお、最後にこれだけは言っておきたいのですが、本作だけ見ると「セクハラ」は、「男性が女性に一方的に行うモノ」のように見えがちですが、決してそんなことはなく、当然逆もあり得ます。
事実、「#me too」運動を行っている一部の女性活動家が、少年に「セクハラ」および「一方的な性行為」を行っていたというニュースをご存知の方も多いと思います。
このため、「女性だからセクハラを受けないように気をつけなくちゃ」「男性だからセクハラをしないように気をつけよう」ではなく、性別分け隔てなく問題意識を持つことが何よりも大切だと思います。この映画をキッカケとして「セクハラ」に対する問題意識が芽生えることは本当に価値があると思います。
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「セクハラ」「#me too」問題に興味、関心がある方は、是非『スキャンダル』をご鑑賞下さい!